都心の飲食店でも「客席はあるのにスタッフがいない」…"事実上の移民"を拒む「出生数67万人の日本」の危うさ
都心の飲食店でも「客席はあるのにスタッフがいない」…"事実上の移民"を拒む「出生数67万人の日本」の危うさ
■「人手不足倒産する」の悲鳴 「移民受け入れ反対」の声が強まる中で、外国人労働者に依存している零細工場や店舗などの現場からは、「このままでは人手不足倒産する」という悲鳴が聞こえる。高市早苗内閣はいったい、日本の外国人政策をどこへ持って行こうとしているのだろうか。
これまで現場の人手不足を補ってきた技能実習制度が2027年4月に廃止される。「発展的解消」として新たに「育成就労制度」に移行されることが法改正で固まっているが、3年間の移行措置があるので、完全に技能実習制度が無くなるのは2030年になる。
これまで技能実習は日本で技術を学び自国に持って帰るという「国際貢献」が理由だった。もっともこれは「建て前」で、実際には日本の現場の人手不足対策として機能してきた。 新たに導入される「育成就労」という新制度では、さすがに「建て前」はやめ、人手不足への対応として、「人材育成・人材確保」を目的としている。「本音」で制度設計している点は外国人労働者受け入れに前向きに対応しているように見えるが、一方で、新制度を事実上の「移民」だとして反対する動きが根強くある。
なぜ、技能実習制度が廃止されることになったのか。まずはそこから振り返っておこう。
■失踪者が大きな社会問題となった 実は、技能実習生の「失踪」が相次ぎ、問題になっていた。出入国在留管理庁の統計によると、2023年1年間で9753人もの実習生が職場から消えていたのだ。技能実習生は途中で勤務先を変えることができなかったため、低賃金や過酷な労働、ハラスメントなどが横行し、耐えきれずに逃げ出す実習生が多くいた。これが大きな社会問題となり、技能実習制度への批判となっていた。
一方、技能実習生は、送り出し国側の業者などに多額の手数料を支払うため、来日前に多額の借金を背負っているケースが多くある。その返済を進めるために、よりたくさん稼げる職場に移るために失踪する例も多くあった。また送り出し業者側が、いったん在留許可を取ってしまえば、良い仕事に移れると言って勧誘していたケースもある。 外国人労働者を受け入れる会社は、こうした送り出し業者や仲介業者にひとり50万円から100万円の手数料を支払っていることも多く、働きの悪い外国人にパワハラを働く温床にもなっていた。
■日本語能力検定試験で一定レベルが必要 こうした借金で身動き取れなくしたうえで、ひとつの会社で過酷な労働をさせる技能実習制度については国際的な批判の的にもなっていた。米国国務省の人身売買に関する報告書で「強制労働を含み、最低基準を満たしていない」という批判をされたこともあり、日本政府は制度の廃止を決めたわけだ。 現在は悪徳業者が排除されたこともあり、失踪者は大幅に減少した。
こうした批判を浴びてスタートした新制度では、一定の条件を満たせば本人の意思で職場を変えることを可能にした。また、技能実習制度では求めていなかった日本語能力についても、就業開始前に日本語能力検定試験でN5(A1)レベル以上が必要とされた。ちなみにN5は日常会話の初歩のレベルだ。 働き始める段階でN5に達していない場合、100時間の講習を受けなければならない。また、N5に達して働き始めた後も、3年後までにN4程度に引き上げる必要があり、雇用した企業が100時間程度の講習を提供する必要がある。
「育成就労、受け皿乏しく」――日本経済新聞の10月6日付け朝刊1面にこんな記事が掲載された。
記事では「日本語学校の受け入れ可能人数が7500人程度であることが分かった」とし、「年15万人が来日し働きながら日本語能力を高める理念が揺らぐ」と制度自体が機能するのか、危惧している。特に現状で外国人労働者が多い愛知や埼玉、千葉で日本語を教える教員が不足しているという。
■12万人に日本語教育が必要な状況 では就労目的で日本にやってくる人材の日本語力はどの程度なのか。記事によれば、国際人材協力機構(JITCO)の調査で、「来日時にN5以上に達していた実習生は2割弱だった」としている。
つまり、15万人来日するとして、12万人に就業開始前の日本語教育が必要になると試算できるわけだ。 日経新聞のこの調査の解答率は高くないとはいえ、日本語学校だけに日本語教育を頼る前提では「育成就労」自体がたち行かなくなることがはっきりしている。かといって、なし崩し的に日本語能力の乏しい外国人を受け入れれば、受け入れ企業での仕事に差し支えるだけでなく、地域社会とのトラブルなどにつながり、育成就労制度自体に反対する声が高まることになりかねない。
■「事実上の移民」として反対の声 実際、育成就労制度を「事実上の移民だ」として反対する声が根強くある。 というのも、技能実習制度では在留期間は最長5年としていて、期間終了後に帰国することが前提だった。ところが、新しい育成就労制度では、原則3年としながらも、その後、「特定技能」という在留資格に移行することが前提になっている。特定技能には1号と2号が存在するが、1号に合格するための条件が、一定の専門技能と日本語能力を持つこととなっていて、日本語検定試験N4以上に合格することを求めているのだ。特定技能1号は期限1年で、通算で上限5年まで在留できる。
さらに特定技能2号という資格があり、これに認められれば、在留期間の上限がなくなり(一定期間ごとの更新は必要)、要件を満たせば、配偶者や子どもの帯同が可能になる。移民反対派が育成就労は事実上の移民につながると批判しているのは、特定技能への移行が前提の制度になっているためだ。
■「対象外」になる仕事がある 人手不足に喘ぐ現場が困惑しているのは、技能実習では受け入れを認められていたのに、育成就労では認められない業種があることだ。 前述のように育成就労制度は、特定技能1号への移行が前提となっているため、特定技能制度で認められている17の産業分野に限られている。現状では例えば、一般家庭用のクリーニング店の作業や、空港のグランドハンドリング職、ボイラーメンテナンス職などは対象から外れると見られている。 クリーニングでも工場でのリネンサプライなどは特定技能だが、小規模な街のクリーニング店の作業は対象にならないと見られている。
2008年の年末に、リーマンショック後の「派遣切り」などで職や住まいを失った非正規労働者らを支援するために「年越し派遣村」というのが東京の日比谷公園に設置された。そこで、クリーニング工場を営む社長が臨時に雇用することを決めて実際に10人ほどの日本人が工場で働いたが、数日で全員が“失踪”したという。猛烈な熱さの中での重労働に耐えられず辞めてしまったわけで、日本人が嫌ってやらない重労働を外国人が支えているケースも多い。この手の大きな工場はリネンサプライ業の範疇に入るとみられるが、すでに外国人なしでは営業できない業種も増えている。
■「スタッフがいなくて客を取れない」 特定技能の「外食」分野は、外国人労働への依存度が高い職種のひとつだが、4月以降、新規の在留資格申請が止まっている。受け入れ枠として決めた上限の5万人に近づいたためだが、外食の現場では一気に人手不足に拍車がかかっている。大学生の人数減少が今後本格化する中で、アルバイトの確保も難しくなっており、「客席はあるのだが、スタッフがいないために客を取れない」(都心の飲食店)という悲鳴が聞かれる。前出のクリーニング工場や弁当工場もそうだが、人目に触れないところで外国人労働に依存しているケースが多い。 老人ホームや病院などの給食も外食として扱われていたが、深刻な人手不足で給食が回らなくなる事態に直面、2027年4月から外食ではなく「食料品製造」に分野を変えることで給食業務には特定技能1号の外国人を受け入れ可能にする「便法」を取ることになった。
■「日本で働きたい優秀な若者がたくさんいる」 高市政権は、外国人の受け入れを厳格化する姿勢を示し、次々と施策を打っている。年内にも人口総合戦略との一体協議で「在留外国人受け入れ基本方針」を策定するという。年間の出生数が100万人を割ったのが2016年、その後、出生数は67万人まで激減している。100万人割れ世代があと8年すれば高校を卒業して就職する年齢に達する。そこから先は、新卒の就労者は67万人に向けて激減していくわけだ。そんな中で、移民を排除し続けて日本社会は機能し続けられるのか。
愛知県の大学に留学している外国人と、人手不足に苦しむ地場企業との就職マッチングなどを行う一般社団法人グローバル愛知の長崎洋二代表理事は言う。「日本の事が大好きで日本で働きたいと思っている優秀な若者がたくさんいる。彼ら彼女らに長く日本で働き生活してもらえる仕組みをきちんと整えるべきだ」。事務局によると、高市内閣による在留資格申請の手数料の大幅引き上げで就職する留学生たちの資金負担が増えて困っているという。就職予定先企業に補助金を出してもらえるよう働きかけているそうだ。

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