技能実習・特定技能制度の見直し議論とは
人権問題も含めた「技能実習制度」の見直し 外国人が日本で働きながら技術を習得することを支援する「技能実習制度」の見直し議論が本格化する。同制度を「特定技能制度」と一本化することも視野に入れ、今後検討が行われる見通しだ。政府は両制度の見直しを検討する有識者会議を設置し、年内に初会合を開き、来年秋までに最終報告をまとめる予定だ。
技能実習制度の下で日本に滞在する実習生は、2022年6月末時点で約32万8,000人いる。今年9月時点で6,070万人の雇用者全体の0.5%程度を占める。 技能実習制度は、新興国の経済発展に向けて技術供与などを目的に国際貢献の一環として1993年に創設。現状では90程度の職種で最長5年働くことができるが、原則転職ができず家族の帯同も認められていない。 技能実習法には「労働力需給の調整手段として行われてはならない」と定められているものの、実際には本来の制度の目的とは異なり、人手不足への対応として多くの企業が利用している。 さらに、賃金の未払いや人権侵害の問題もあり、国内での処遇の低さや労働環境の過酷さと相まって、日本国内での失踪や不法就労につながっている。
米国務省は各国の人身売買についてまとめた報告書の中で、日本の技能実習制度が人権侵害の温床になっている、との見方を示している。
特定技能制度への外国人労働者のシフト
一方、技能実習制度が抱える問題を踏まえて2019年4月に運用が始まったのが特定技能制度である。人手不足対策の観点から、外国人人材を初めて正面から受け入れることになった制度。 同制度は、人手不足の12分野で労働者を受け入れ、同じ業種なら転職も可能で最長5年間の在留を認める「特定技能1号」と、家族の帯同や在留資格の更新ができ永住にも道を開く「特定技能2号」がある。技能実習を終えた後、同制度を活用して日本に残って働くことも可能であり、 特定技能制度が導入された時点で既に多くの問題を抱える技能実習制度から特定技能制度に吸収させていくことは想定されていた。ただし、実際にはあまり進んでいない。2022年6月時点で、特定技能は9万人程度と、実習生約32万8000人の4分の1程度にとどまっている。 そこで、制度として両者を一本化することが検討され始めたのだろう。特定技能制度には2023年度までの5年間でおよそ34万5,000人の受け入れ上限がある。これは、両制度の現時点での外国人人材の合計数にほぼ等しい。
人手不足解消という日本側の都合 技能実習制度を技能実習制度に吸収させて一本化することは適当だと思うが、他方で、国際貢献としての技術供与という目的をなくしてはならず、新たな制度のもとでもそれをしっかりと残していくことが重要である。2022年3月に公表された入国管理庁の委託調査では、来日目的として、「お金を稼ぐため」よりも、「技術の習得・将来のため」を挙げる外国人が多いという結果が得られた。技能の習得という目的が、外国人人材の勤労意欲を支える重要な部分を占めているとすれば、企業側が技能の習得を支援することは労働生産性向上などにもつながり、企業側にもメリットを生む。
日本では過去30年間、賃金がほとんど上昇していない一方、過去10年間は日本銀行の大幅な金融緩和の影響で、他通貨に対して円安がかなり進んだ。この間にアジア諸国では賃金の上昇が進んだことから、アジア諸国の外国人にとって日本で稼ぐ給与を自国通貨に換算した場合、その金額はかなり目減りしており、日本で働くメリットが低下している。 そうした中で、日本が良質な外国人人材を確保していくには、人手不足解消といった日本側の都合だけを考えていてはいけないだろう。また、現在の特定技能2号の枠を大幅に拡大し外国人人材のより長期間の滞在を可能にしていくことも重要。
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